<種牡馬解説①>


 種牡馬辞典執筆の時期か迫ってきているので、その準備もかねて、しばらく不定期に種牡馬解説をここに載せていきたいと思う。第一回の今回はダイワメジャー産駒をみていくことにする。



ダイワメジャー産駒


 前回の辞典では、ダイワメジャー産駒は短期的にも、中長期的にも疲れやすいのが弱点という話をした。特に古馬になると、それが加速するということだった。またタフな流れに強く、疲れてさえいなければ相手強化やペースアップなどで前走より混戦になるとよりよいということだった。

 15年から原稿を書いている時点まで、ほぼ2年間のダイワメジャー産駒の古馬成績を芝に限定して見てみよう。

 そうすると34頭出走して1着2頭、2着3頭、3着ゼロとなっている(10月まで)。勝った2頭は、中10週開いていた小倉大賞典のカレンブラックヒル、中8週開いていた阪急杯のダイワマッジョーレだ。前回同様、疲れていないとき、特に間隔が開いたときに強いという特徴を表している。ただ、前回書いたように、休み明けで疲れがなかった場合は2,3走走るケースもあるので注意したい。その後は使い込むほどに数字は落ちていく。

 この2頭しか勝っていないので、単勝回収率は35円と低い。複勝回収率は100円と高いが、これは京都牝馬Sでゴールデンナンバーが15番人気2着に激走して複勝で2180円付けたことで跳ね上げたもの。このゴールデンナンバーは除外を挟んでほぼ半年ぶりのレースだった。つまり単勝、複勝共に、中8週以上開いた馬が引き上げていて、レース間隔が詰まっていた馬の成績は散々だったということになる。もちろん、レース間隔が詰まっていても蓄積疲労がなければ問題ないが、それでも全体の期待値は下がっていくことは確かだ。それまで如何に疲れを残していないかが、古馬では重要になってくるということである。

 ここで3ヶ月以上の休み明け以外で走ったケースを調べてみよう。すると小倉大賞典のカレンブラックヒルが前走2000mの金鯱賞で5着後に重の小倉大賞典1800mで1着、ダイワマッジョーレが前走阪神C1400m3着後に同じ阪神1400mの阪急杯を不良馬場で1着、サンライズメジャーが1600mのマイラーズC6着後に1400mの京王杯SCで2着となっている。休み明け以外で3着以内の馬が3頭しかいないのも驚きだが、その3頭のパターンをよく見るとダイワメジャー産駒の性質がより鮮明になる。休み明け以外で走ったレースは、距離短縮か、馬場が道悪など特殊になったときなのだ。

 ダイワメジャー産駒はもともと闘う意欲が旺盛なのだが、レースを重ねるごとに、次第に道中我慢が出来なくなってくる。短期的にも、長期的にも疲労に弱いので、古馬になって休み明けでないと、蓄積疲労から精神的にも肉体的にも我慢が出来なくなるのだ。そうすると、どうしても前走より短い距離で前走より早くレースを終わらせるか、特殊馬場で走ることに集中力を持続させないと、最後の粘りを欠いてしまうケースが圧倒的に多くなるというわけだ。

 これに輪を掛けているのが、元来ダイワメジャー産駒が、前走よりタフな条件で強いという傾向である。疲れてさえいなければ、前走よりタフな条件設定で激走しやすいので、前走より距離が短くなってペースアップする短縮や、前走より重い馬場になる道悪などでは、古馬だけでなく、2,3歳馬でも穴をよく開ける。

 例えば重賞で再三穴を開けたソルヴェイグで見てみよう。最初に8番人気1着と穴を開けたのがフィリーズレビュー。前走は500万で5着凡走後の、一気の相手強化で格上挑戦だった。そして京都から急坂の阪神替わりでもあった。ペースもアップしている。このように、前走よりタフなレース質になると激走しやすい。もちろん、500万を1番人気で5着に敗れた後なので、ダイワメジャー産駒最大の弱点である疲れの心配は全く無い。

 続く桜花賞は17着に惨敗。距離が長かったこともあるが、ここまで負ける馬でもなく、これは単に前哨戦激走後の中3週で心身疲労が出たものだ。

 そして中10週開けて、函館スプリントSに出走。12番人気で1着に激走する。400mの距離短縮でペースも一気に速くなり、また初の古馬混合戦で道中の厳しさも今までの比ではない。さらにはタフな馬場の函館。このように前走よりハードに流れるレースで、しかも17着後の中9週というように、疲れていないときは激走しやすいというわけだ。

 続くキーンランドCは、前走よりペースダウンしてかなり遅い流れに、だが距離は同じ1200m。競馬場は函館から札幌だが、特にタフになったわけではない。こういう前走よりタフに流れるわけではないレースで、しかも激走後で疲労があると走りが鈍るのがダイワメジャー産駒の特徴で、4着に凡走。

 次走はGⅠのスプリンターズS。相手が一気に強化して、ペースもかなりのスローだった前走よりはグンと上がった。また前走緩い流れで4着だったのでほとんど走っていないために疲労も少なかった。ということで9番人気で3着に激走する。

 というように、重賞で3着以内に入った3レース全てが、前走よりタフに流れて、また疲労の少ないレースだったのである。

 この本質的傾向は3歳も古馬も変わらないが、古馬になれば疲れに対する弱さは次第に増していく。ただ、そうであるからこそ、疲れているときに凡走を続け、ツボに嵌まって激走ということになりやすいので、4歳は穴ポイントがむしろ増えやすい。これが5歳を超えてくると長期疲労の影響で短期疲労が薄れての反撃力が弱まり、激走回数は次第に減って、重賞での妙味も薄れていく傾向にある。

 特にGⅠとなるとその傾向は顕著で、3歳では5回3着以内に入っているが、4歳以降は2回しか3着以内に入っていない。その2回とは4歳時のマイルCSにけるダイワマッジョーレと、やはり4歳時の高松宮記念におけるコパノリチャードだ。ダイワマッジョーレはクラシック戦線に乗れず、3歳暮れまで条件戦だった馬で、実質この4歳時が初のトップクラスでのシーズンだった。つまりトップクラス鮮度で見れば一年のみで、クラシック戦線に乗った3歳馬と何も変わらない鮮度状態だった。コパノリチャードはクラシック戦線に乗っていたが、今回が生涯はじめての1200mで、始めてスプリント戦線に登場した瞬間だったのである。

 つまり超トップクラスの場合は、そのステージにおける長期疲労にも敏感な種牡馬ということである。実際、コパノリチャードは初の1200m戦の高松宮記念で1着した後、1200mを5回走ったが、最高が5着だった。ダイワマッジョーレもマイルCS連対後に6回マイル戦を走ったが、その最高着順は9着だった。マイルCS連対後に一度だけ重賞で連対するのだが、それが最初に見た、GⅠ連対を果たしたマイルよりも1ハロン短い1400mの阪急杯であったのも、決して偶然ではない。





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